COVID-19に関する治験についてThought on clinical trials

欧州医薬品庁の見解です。小規模の比較群のない臨床試験や観察研究が増加していることについて懸念を表明しています。
https://www.ema.europa.eu/en/documents/press-release/international-coordination-needed-encourage-conduct-large-decision-relevant-covid-19-clinical-trials_en.pdf

there are concerns about the growing number of COVID-19 stand-alone clinical trials with a small number of participants and observational studies, which might not generate the data required for regulatory decision-making.

International coordination needed to encourage conduct of large, decision-relevant COVID-19 clinical trials. 15 May 2020

日本の規制当局は国際的に合意したとおりに新型コロナウイルス感染症治療薬の審査や供給に対応できるのでしょうか。私が国際業務を担当したのも20年も前の話。その後、医薬品医療機器総合機構の設立準備も行いました。医薬品に関する規制についての国際的な会合(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議))が1990年に発足して30年経ちますが、その間、日本の医薬品規制能力は国際的にも認められ、科学に立脚した医薬品の評価組織となる医薬品医療機器総合機構を育ててきました。

それが今ゆらいでいるように見えます。

近年新しく発足した多国籍の規制当局のみが参加している協議会(ICMRA)では、今回の新型コロナウイルス感染症治療薬に関して、3月、4月にインターネットを通じた会議を開催し、その結果をプレスリリースしています。日本(医薬品医療機器総合機構)も参加し合意しています。[1]この国際協議会の見解について、考えてみたいと思います。

It was agreed that randomised controlled trials (RCTs) with an appropriate control arm (i.e. not including antivirals or immune modulators), appropriately designed to generate data that meet regulatory requirements for approval, could lead to timely regulatory decisions, and could guide clinicians in defining promptly the best treatment options for COVID-19.

どんな薬でも、適切な比較対照群を設定した無作為化比較試験(さらに盲検化)を実施することが理想です。その理想型は外さないことが必要です。残念ながら、厚生労働省はここから逸脱して、アビガンの新型コロナウイルス感染症治療薬として開発を目指すことをせず、観察研究を推進しています。検証がされていない薬の使用がどうしても必要な場合は人道的観点からの使用を、国の規制により行うことは各国判断として止めることはできないものの、”as long as they do not pose a threat to clinical trials recruitment.”(臨床試験の被験者登録を脅かすことのない限り)という条件付きです。この国際声明が出されたのが2020年4月2日。驚いたことに、その日のうちに厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症に対する厚生労働科学研究班等への協力依頼について(その2)」[2]を発出して、”患者登録を迅速に行い早期に試験結果が得られるよう”協力を求めているのです。厚生労働省は企業が検証的臨床試験を順調に行えるよう支援することが第一であり、人道的観点からの使用は、「人道的」であるべきであり、「誰でもどうぞ」ということではありません。日本はすっかり国際基準から外れてしまったようで、残念です。医学分野でも正攻法で研究開発力を付けている中国に対して、ここからどうやって日本が国際的な基本路線にもどれるのか気をつけて様子を見てみたいと思います。

[1]IInternational Coalition of Medicines Regulatory Authorities (ICMRA). Global regulatory workshop on COVID-19 therapeutic development. 2020年4月2日
[2]厚生労働省. 2020年4月2日. https://www.mhlw.go.jp/content/000618587.pdf