医療従事者向けの添付文書の記載内容は厚生労働省およびその関連機関*に よる指導の下で、製造販売業者が準備します。 2021年2月14日に承認されたコミナティ筋注の添付文書には次のような記載がありま す。
www.info.pmda.go.jp/go/pack/631341DA1025_1_02/?view=frame&style=XML& lang=ja
9.1 接種要注意者(接種の判断を行うに際し、注意を要する者) 被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合は、健康状態及び体質を勘案 し、診察及び接種適否の判断を慎重に行い、予防接種の必要性、副反応、有用性につ いて十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。 9.1.1 抗凝固療法を受けている者、血小板減少症又は凝固障害を有する者 9.1.2 過去に免疫不全の診断がなされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者 がいる者 9.1.3 心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患を 有する者 9.1.4 予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた者及び全身性発疹等のアレル ギーを疑う症状を呈したことがある者 9.1.5 過去に痙攣の既往のある者 9.1.6 本剤の成分に対して、アレルギーを呈するおそれのある者 9.2 腎機能障害を有する者 接種要注意者である 9.3 肝機能障害を有する者 接種要注意者である
一方、 欧米の規制当局が公開しているコミナティの製品説明書には、 以下の項目は見当たりません。
9.1.3 心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患を 有する者 9.1.5 過去に痙攣の既往のある者
9.2 腎機能障害を有する者
9.3 肝機能障害を有する者
例)欧州 www.ema.europa.eu/en/documents/product-information/comirnaty-epar-product-information_en.pdf
日本の添付文書にだけ記載されている項目は、臨床的に評価されたエビデンスがある のでしょうか。 添付文書からはそうした背景はわかりません。 そこで、記載の理由を確認するため、日本病院薬剤師会のガイドラインに則して製薬 企業が作成している「インタビューフォーム」を見てみます。 www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/672212_631341DA1025_1_1F.pdf
9.1.1 出血リスク増大に注意を要する被接種者の場合、筋肉内接種後の出血リスクを 最小限に抑えるため、筋肉内接種ワクチン類に共通の一般的な注意喚起として設定し た。 9.1.2 平成 25 年 3 月 30 日健発 0330 第 2 号「予防接種法第 5 条第 1 項の規 定による予防接種の実施について」に基づき、ワクチン類共通の注意喚起として設定 した。 このような被接種者では、本剤に対する免疫応答が低下する可能性があり、 本剤が目的としている SARS-CoV-2 による感染症のリスクを最小限にするための措置 を継続して講じる必要がある。 9.1.3〜9.1.6 平成 25 年 3 月 30 日健発 0330 第 2 号「予防接種法第 5 条第 1 項の規定による予防接種の実施について」に基づき、ワクチン類共通の注意喚起とし て設定した。 9.2 平成 25 年 3 月 30 日健発 0330 第 2 号「予防接種法第 5 条第 1 項の規定 による予防接種の実施について」に基づき、ワクチン類共通の注意喚起として設定し た。これらの被接種者に対しては、健康状態及び体質を考慮し、接種の可否を判断 し、保護者あるいは被接種者に対して十分に説明し、同意を確実に得た上で注意して 接種すること。 9.3 平成 25 年 3 月 30 日健発 0330 第 2 号「予防接種法第 5 条第 1 項の規定 による予防接種の実施について」に基づき、ワクチン類共通の注意喚起として設定し た。これらの被接種者に対しては、健康状態及び体質を考慮し、接種の可否を判断 し、保護者あるいは被接種者に対して十分に説明し、同意を確実に得た上で注意して 接種すること。
どうやら、コミナティという製品特有のエビデンスは無いようです。 厚生労働省の指導の下、企業が記載の根拠として引用しているのは、厚生労働省健康 局健康課予防接種室が発出した「予防接種法第 5 条第 1 項の規定による予防接種の 実施について」です。 その文書を見てみますと、個別の製品特有の内容が臨床的評価と共に紹介されている わけではなく、「ワクチン」として丸めて注意喚起を試みている文書でした。 www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0277&dataType=1&pageNo=1
7 予防接種の実施計画 (1)予防接種の実施計画の策定については、次に掲げる事項に留意すること ウ 予防接種の判断を行うに際して注意を要する者((ア)から(カ)までに掲げる者を いう。以下同じ。)について、接種を行うことができるか否か疑義がある場合は、慎 重な判断を行うため、予防接種に関する相談に応じ、専門性の高い医療機関を紹介す る等、一般的な対処方法等について、あらかじめ決定しておくこと。 (ア) 心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患を有 する者 (イ) 予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた者及び全身性発疹等のアレルギー を疑う症状を呈したことがある者 (ウ) 過去にけいれんの既往のある者 (エ) 過去に免疫不全の診断がされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がい る者 (オ) 接種しようとする接種液の成分に対してアレルギーを呈するおそれのある者 (カ) 結核の予防接種にあっては、過去に結核患者との長期の接触がある者その他の 結核感染の疑いのある者
これでは接種を担当する先生に、接種要注意者をどう見分けるかのヒントも出せない レベルです。 要するに、気にしなくてよい、ということでしょうか・・・・
接種する医師が困らないよう、厚生労働省は、医学的薬学的な議論を踏まえた臨床評 価というエビデンスに基づく情報発信をする必要があると思います。