臨床医のアナフィラキシー対策は

くすりのこと

薬剤起因性アナフィラキシー

アナフィラキシーを引き起こす可能性のある薬物はさまざま存在します。

抗菌薬や解熱鎮痛薬といった私たちに身近な薬物によってアナフィラキシーが引き起こされることがあります。通常の量を服用したにもかかわらず異常な症状があらわれた時には、薬物アレルギーを疑います。また、麻酔薬や生物学的製剤などもアナフィラキシーの原因となりえます。

アナフィラキシーを引き起こす主な薬物は以下のものがあります。抗菌薬(β-ラクタム系、ニューキノロン系など)、解熱鎮痛剤(NSAIDsなど)、抗腫瘍薬(白金製剤やタキサン系薬など)、局所麻酔薬、筋弛緩薬、造影剤、生物学的製剤、減感作療法(アレルゲン免疫療法)、輸血製剤などがあります。

アナフィラキシーの診断と対応

ワクチン接種後の観察時間 原則的には急に座ったり立ち上がったりする動作を禁止し、15分間座位で様子を見ます。過去にワクチンあるいは他の医薬品によるアレルギーがある場合や、コントロール不良と思われる気管支喘息患者は少なくとも30分程度の観察が望ましいです。 なお、過去にワクチンあるいは他の医薬品による即時型アレルギー反応/アナフィラキシー歴があり、かつβ遮断薬を投与中の場合には、医療機関での接種を推奨します。 アレルギー反応への対応 観察時間内に、注射部位以外の皮膚・粘膜症状(蕁麻疹、皮膚の発赤、紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹や刺激感、目のかゆみ・眼瞼腫脹、くしゃみ・鼻汁・鼻のかゆみ・鼻閉などの鼻炎症状。アレルギー性鼻炎患者は明らかな症状の増強)が出現した場合は、ヒスタミンH1受容体拮抗薬を内服させて症状が改善するまで観察します。 アナフィラキシーの診断 ワクチン接種後30分の観察中に、以下のうち2つ以上の症状が発現した場合は、アナフィラキシーと診断して速やかに対応をします。

・アレルギーを疑わせる皮膚・粘膜症状 ・気道・呼吸器症状(咽頭閉塞感、呼吸困難、喘鳴、強い咳嗽、低酸素血症状) ・強い消化器症状(腹部疝痛、嘔吐、下痢) ・循環器症状(血圧低下、意識障害)

アナフィラキシーへの対応

原則として、仰臥位で下肢を挙上させます。嘔吐や呼吸促拍の場合には、本人が楽な姿勢にします。 アナフィラキシーの第一選択治療はアドレナリン(ボスミン®)の筋肉注射であり、絶対的禁忌は存在しません。アナフィラキシーが疑われた時点で、迷わず可能な限り早く大腿部中央の前外側等にアドレナリン(ボスミン®)(0.01mg/kg、最大0.5mg)筋注します。 同時に酸素吸入と生理食塩水の急速点滴投与、呼吸困難が強い場合は短時間作用性β₂刺激薬の吸入も実施します。アドレナリンの追加投与が必要と思われるようであれば、適切に医療機関へ搬送します。

アナフィラキシー対処のための準備体制

少なくとも以下の医薬品と医療備品をワクチン接種現場に備えます。

血圧計、静脈路確保用品、輸液セット アドレナリン注射液0.1%(2本以上) ボスミン®注1mgまたはアドレナリン注0.1%シリンジ「テルモ」 生理食塩水20mL(5本以上)/500mL(2本以上) ヒスタミンH1受容体拮抗薬(5錠以上) PEG(マクロゴール)を含まないもの(例 ビラノア錠、ルパフィン錠、アレグラOD錠など) 副腎皮質ステロイド薬注射薬(2本以上) ヒドロコルチゾン(ハイドロコートン®、ソル・コーテフ®、サクシゾン®など)またはメチルプレドニゾロン(ソル・メドロール®、ソル・メルコート®など)、PEGやポリソルベートを含むものは不可(例 デポ・メドロール®)

医薬品相互作用

β遮断薬を服用中に起きたアナフィラキシーで、アドレナリン無効時にグルカゴンを投与する、という話が医師の間で広まりました。

この背景として、まずβ遮断薬の服用者ではアナフィラキシーの治療に用いるアドレナリンの効果が減弱するという薬同士の相互作用が知られており、重篤化の恐れがあるとしています。

β遮断薬服用者のアナフィラキシーショックに対して、アドレナリン無効時にグルカゴンが有効だった症例報告が散見されています(保険適応外使用)。グルカゴンはβ受容体を介さずに心筋のcAMP濃度を上昇させ、心筋収縮力を促進するため、β遮断薬の影響を受けずに血圧上昇させます。ただし、グルカゴンの急速投与は嘔吐を誘発するため、意識障害患者では側臥位で投与し、気道の安全性を確保する必要があります。

グルカゴンと同様にホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬によりcAMPの分解を抑制し、結果的にcAMPが上がります。教科書的には、グルカゴンよりもPDE阻害薬であり、カフェイン、テオフィリン、ミルリノンなどが注射剤で使えるはずです。

前立腺肥大などに用いられるα遮断薬との併用では、アドレナリンにより血圧が低下することがあるので、注意が必要であるといわれています。抗精神病薬も併用禁忌に上がっています。

実は、アドレナリンは併用禁忌と併用注意の薬の種類は多いです。

ですが、救急対応では服用薬が不明なことが多いので、まず少量入れて反応見てというのが実際の対応です。そのうえで、ショックが起きた場合ですが、アドレナリンで効果が見られない場合に、救急ではバソプレシンも保険適用外で使用されます。

相互作用の可能性を検討する上で、接種前の服用薬確認は重要です。併用禁忌の薬を使用している患者さんは、原則、不用意な集団接種は難しいだろうと思います。予め服用薬が分かっているのかかりつけ医から患者さんに丁寧に説明して、救急対応のできる医療機関で接種してもらうのが良いのかもしれません。

救急現場の手元に注射剤としてグルカゴンしかなければそれでも良いと考えますが、集団接種や軽装備の接種体制では、アドレナリンの対応のみで、後方支援を仰ぐという選択肢が重要です。

アナフィラキシーが発生した時の救急対応

アナフィラキシーと考えられる場合には、即座に大腿前外側にアドレナリンを筋注します。アドレナリンの投与により、肥満細胞から化学物質が放出されるのを抑制できるのです。筋注なら即効性が期待できます。皮下注射よりも血中濃度上昇が速いので、筋肉に注射する必要があります。皮下に投与すると、末梢血管が収縮してしまい薬剤が流れません。

ワクチンは上腕外側に筋注、アナフィラキシーに対するアドレナリンは大腿前外側に打ちます。あちこち大変ですが、血中濃度を安全かつ早く高めたいので大腿部に打つのです。筋注なら最大血中濃度まで10分程度です。 アドレナリン投与後も血圧が低下しているような場合、たとえばβ遮断薬内服者では通常使用するアドレナリンの2〜5倍程度の量が必要であると言われています。何度か投与するようにして対応します。

救急医としては様々な手段を持ち合わせていますが、薬剤情報があると診療がよりスムーズに行くと思います。

β遮断薬は心不全や心筋梗塞後の心機能維持、生命予後改善を目的に服用することとなります。これを服用しているとワクチンを使用できないということは一切ありません。内服している人は、その情報をわかるようにしておいていただければ、極力安全に配慮して接種していただけるようにしたいと考えています。

ワクチンに限らず、アレルギーの原因は薬剤から食べ物まで多岐に渡ります。良い機会ですので、定期的に薬剤の処方をされている方は、どのような薬剤を服用しているか見直していただければ幸いです。

とにかく、救急対応のできる医療機関への後方支援施設への迅速な連携こそが重要です。

アナフィラキシー類似の症候・疾患との鑑別

COVID-19ワクチンの最も重篤な副反応のひとつにアナフィラキシーがあります。ワクチンの接種行為に伴い、アナフィラキシーに類似する症状を起こし得るものとして血管迷走神経反射、パニック発作、喘息発作、過換 気症候群、てんかんなどがあります。

1.血管迷走神経反射

ワクチン接種をはじめとする様々な要因により、血管迷走神経反射が生じ、低血圧や徐脈を介した失神が引き起こされる可能性があります。 痛み刺激や恐怖、長時間の立位あるいは座位姿勢、睡眠不足や疲労状態などで、血管迷走神経反射を生じやすくなります。日中(特に午前中)に発症することが多い傾向にあります。 多くの場合、頭重感や頭痛、複視や視野がぼやける、嘔気・嘔吐、欠伸、眠気などの前駆症状が現れることが多く、その後一時的な意識消失に陥ります。ただし、急に一時的な意識消失を呈することもあり、注意が必要です。失神の持続時間は比較的短い(1分以内)です。その際に転倒し、外傷を生じることがあるので注意を要します。 アナフィラキシーでみられる全身瘙痒感、蕁麻疹、腹痛、喘鳴などがみられないことが鑑別のポイントとなります。 通常、前駆症状つまり失神の前兆を自覚した場合には、①立ったまま足を動かす ②足を交差させて組ませる③お腹をまげてしゃがみこませる ④両腕を引っ張り合うことにより、失神発作を回避あるいは遅らせ、転倒による事故や外傷を予防することができます。また、横臥させ安静を保つことで自然回復することが期待できます。

2.パニック発作

近年用いられるようになった病名で、パニック症は不安症の分類の一つです。ワクチンに対する不快感・不安・恐怖が身体症状を惹起します。突然発現し、胸部痛、息が詰まる感じ、めまい・ふらつき、悪寒・熱感、動悸・振戦、発汗、嘔気・腹痛、しびれ感・チクチク感など多彩な症候を示します。 症状は通常10分以内に最大となり、数分間で消失します。アナフィラキシーでみられる蕁麻疹、喘鳴、血圧低下などは生じます。

3.過換気症候群

ワクチンに対する精神的な不安や緊張などを感じているときに、自分の意思とは無関係に呼吸回数が通常よりも多くなってしまう状態です。いわゆる神経質な人・不安症の傾向のある人・緊張しやすい人などで起きやすくなります。 過呼吸の状態が悪化し、炭酸ガス濃度が低下して呼吸性アルカローシスに偏ることで血管が収縮し手足のしびれや筋肉のけいれんや収縮(テタニー症状)も引き起こされ、手をすぼめたいわゆる“助産師の手”の形を示すこと(トルソー兆候)もあり、これらの症状と不安からさらに過呼吸がひどくなる悪循環へつながる場合もあります。 アナフィラキシーでみられる全身瘙痒感、蕁麻疹、腹痛、喘鳴、血圧低下などはみられません。

4.喘息発作

既存の気管支喘息がある場合にはワクチン接種によるストレスよってその発作が生じる可能性があります。喘鳴、咳嗽、息切れを認めます。通常喘鳴が聴取されることで、鑑別できます。アナフィラキシーでみられる全身の瘙痒感・蕁麻疹、腹痛、血圧低下は生じません。まず短時間作用性β₂刺激薬の吸入投与を行い。重篤なものでなければ軽快します。