医薬品の科学的評価 favipiravir

アビガンが効くと思っている人々はどのような根拠をもって主張されているのでしょうか?こうした疑問に対するヒントを得るため、テレビやインターネットや新聞で提供されている情報を観察してみることは、適切な研究計画に基づけばqualitative investigattion質的研究として成り立ちます。ここで学術研究並みのことはしませんが・・・・
ざっくり情報を眺めてみると、つまるところ使って良くなったと誰か(有名人)が言っている,という事象をよりどころにしているようです。
このテレビ番組のまとめ記事がわかりやすい。

宮藤官九郎や石田純一など、アビガン服用後症状が改善したという報告がある
(中略)
一方で治療の最前線に立つ医師は「現時点で有効と判断できる十分な知見はなく、臨床研究の結果を待つ必要がある、アビガンを投与してほしいと医療機関に求めるのはやめてほしい」と話している。東邦大学教授もまだまだ情報が少ない、もし自分が感染してもまだアビガンは最後の手段にしたいと話した。

グッとラック! 2020年4月27日(月)08:00~10:25 TBShttps://kakaku.com/tv/channel=6/programID=96043/episodeID=1359606/

アビガンは流通制限されており、適切なルートで入手した薬であるならば、石田氏、宮藤氏はそれぞれ、観察研究あるいはプラセボ対照の治験に参加したはずです。ただし、その辺の正確なところはは公表されていません。私の周りの医師も、「石田さんは治験に参加したのでは」なんて雑談のネタにしていましたが、実際全く不明です。二重盲検(double blinded)で行われる治験の場合は、計画に基づいて、実際に被験者が実薬あるいは偽薬(プラセボ)のどちらを投与されたのかは、あとになってから判明するので、今の時点で石田さんが”アビガンを投与された”と断言するならば、観察研究に参加されたと想定されます。

ここで仮に石田さんが二重盲検プラセボ対照比較試験に参加していたとしましょう。プラセボ対照の治験に参加したならば、実は、石田さんはアビガンでは無く何の有効成分も入っていないプラセボ(偽薬)によって治ったかもしれません。それが判明するのは、開鍵(かいけん key open)したときです。

いま行われている観察研究はアビガン投与群のみをフォローアップする形式で、投薬しなくても治る人がかなりいると世界的に認知されている状況において、服用した→治った、という情報だけでは、とても世界の製薬企業が実施する欧米レベルの治験の足下にも及ばない、承認までたどり着けそうも無いレベルの知見といわざるをえません。

米国の製薬企業ギリアド社は治験で数百例集めています。さらに米国研究機関 National Institute of Aleergy and Infectious Diseases が1000名規模で臨床試験データを集めたと公表しています(観察研究ではありません)。
今晩、総理大臣がわざわざ記者会見でfavipiravirアビガンの5月中の承認を指示した、と発言していたのですが・・・治験を後押しするならともかく、科学的評価に耐えうるデータも無く無理矢理承認を下ろすようなことになれば、世界は日本という製薬市場から後ずさりする可能性がますます強くなるのではないかと心配ししています。