リスク・コミュニケーション

2001年(平成13年)に起きたリスク評価とリスクコミュニケーションの事例

私の関心事は、医薬品等の人に投与したり処置に使用する製品についての健康上のリスク評価とそのことを人々の行動変容に繋げるためのリスクコミュニケーションです。この辺を腑に落ちる感覚で理解してくれたり、実際にまともに取り組んでくれる政治家や幹部は多くは無いと理解しています。そのような中、偶然目にした石破茂氏のネット記事がありました。

石破茂2021年05月15日 https://blogos.com/blogger/ishiba_shigeru/article/

“リスクの相対化とリスク・コミュニケーションの強化は、コロナ禍を機に日本に与えられた大きな課題ですが、これは何も今に始まったことではなく、私が農水大臣在任中にBSEの全頭検査を継続するか否かを検討した時も同じ構図でした。”

ウシの狂牛病の問題は、最初に発見された英国を中心として、2001年から数年にわたり世界中の関心を集めました。、ヒトへ感染するリスクがあるということで、ウシ由来の原料を用いた医薬品や医療機器、化粧品の取扱いを検討することになり、私も担当したことがありました。

薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会伝達性海綿状脳症対策調査会

石破茂氏は、その当時、農水大臣だったのですね。医薬品等の扱い以上に、食品としてのウシそのものの扱いの方針を意志決定することは、さぞ大変だったと想像されます。医薬のいち担当者だった私のプレッシャーとはとても比べものになりません。

相対的リスク/リスクの相対化

”国民全体を分母として計算した最悪の発症リスクは0.9人とかなりゼロに近く、実際に発症した人も全くいなかったのですが、全頭検査をやめれば国民の不安が再燃しかねないという判断から、これを継続することになったように記憶しています。科学的にリスクはゼロに近いと判明しても、あの牛がよろめいて倒れる英国の映像が与えた印象があまりに強烈であったために、国民の不安感は払拭されることがなく、「安全」よりも「安心」を確保するために多大のコストを払うこととなりました。“

とても実感のこもった言葉です。私も当時同じように感じていました。 医薬品や化粧品の中にはウシ由来の原料が用いられているものがあり、これらをどうするのか、もちろん石破氏のコメントのとおり世の中に存在する多くのリスクと比べてリスクは限りなく低い(全日本人においてほぼゼロ)、つまり他と比べた相対的リスクが低いのですが、科学的にはゼロを証明することはできないために、”リスクはゼロでは無い”という表現から”「安全」よりも「安心」を確保する”という方向性が日本全体の当時の雰囲気でした。私たちが直接口にする食品とは異なる医薬品・化粧品であっても、です。

”結局は国民がどれほど政府、およびその発信する情報を信頼することができるかに尽きるのですが、これこそ一朝一夕にできることではありません。”

そのためにも、私はいまは公務員ではないので外の立場から、相対的なリスク・ベネフィットの評価やその情報を元にしたコミュニケーションに引き続き貢献していきたいと思います。リスクの相対化を一人で理解しているなんて勿体ないですからね。一人でできることの積み重ねが大切だし意味があると思っています。私の理解を発信してみなさんと共有=リスク・コミュニケーションしていきたいと思います。