米国における承認
2021年6月7日、FDA(米食品医薬品庁)は、エーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病(AD)治療薬候補「アデュカヌマブ」(一般名)を条件付きで迅速承認制度により承認しました。 www.fda.gov/drugs/postmarket-drug-safety-information-patients-and-providers/aducanumab-marketed-aduhelm-information
本剤は、米国においてバイオジェン社が2020年7月に承認申請をFDAに提出しました。 本申請は2020年11月のFDAの諮問委員会では承認推奨を得られず、FDAが追加のデータを求めて審査期間を延長していました。この度の承認に向けて、最終的には、主要評価項目である認知機能の改善ではなく、アミロイドβ蓄積量の減少を代替エンドポイントして、承認されています。
日本では、エーザイ社が厚生労働省へ2020年12月10日に承認申請しており、現在、審査中です。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、記憶力や思考力が徐々に失われ、最終的には単純作業ができなくなる不可逆的で進行性の脳疾患です。アルツハイマー型認知症の具体的な原因はまだ完全には解明されていませんが、神経原線維変化(neurofibrillary tangle)(過剰リン酸化タウの細胞内凝集体 )やアミロイドβの細胞外神経組織への沈着などの脳内の変化により、神経細胞とその結合が失われることが特徴です。これらの変化は、人の記憶力や思考力に影響を与えます。 アミロイドβは脳内で作られるたんぱく質の一種です。健康な人の脳にも存在する物質ですが、通常は、脳内で短期間で分解、排出されます。しかし、アミロイドβ同士がくっついて異常なアミロイドβができると、排出されずに脳に蓄積され、健康な神経細胞にアミロイドβがまとわりつきます。神経原繊維変化は、健康な神経細胞にタウたんぱくという物質が絡み合って起こるもので、アミロイドβ同様、不要な物質が溜まることで神経細胞の働きを悪くし、神経細胞死につながります。
アデュカヌマブは、アミロイドベータ(Aβ)を標的とする抗体医薬品です。アデュカヌマブは脳内のAβを除去し、軽度認知障害(MCI)および軽度のADの臨床状態の悪化を防ぐことが期待される、アルツハイマー病の根本的な病態生理を標的とした初めての治療薬です。 FDA医薬品評価研究センター長のパトリツィア・カバゾーニ医師は、「アルツハイマー病は、診断された人とその家族の生活に深刻な影響を与える壊滅的な病気です。本剤は、アルツハイマー型認知症の根本的な症状を改善する世界初の治療法です。」と発言しています。 本剤は、アルツハイマー病の治療薬として承認された初めての新薬であり、アルツハイマー病の根本的な病態生理を標的とした初めての治療薬です。
アデュカヌマブの有効性・安全性
患者さんがより早く治療を受けられるようにするための承認促進制度が各国にあります。米国においても、そうした制度に基づき、アルツハイマー病の患者さんのため、FDAは企業から提出された資料を優先的に審査し、迅速な承認に結びつけました。それと同時に、FDAはバイオジェン社に対して、本剤の臨床的有用性を検証するための新たな無作為化比較臨床試験の実施を求めています。この試験で臨床的有用性が確認できない場合、FDAは本剤の承認取消しの手続きを開始する可能性があります。
本剤の主な副作用は、ARIA、頭痛、転倒、下痢、錯乱/錯乱/精神状態の変化/錯乱などが挙げられます。 アミロイド関連画像異常(ARIA)は、一般的には脳の領域における一時的な腫れとして現れ、通常は時間の経過とともに解消され、症状を引き起こすことはありませんが、人によっては頭痛、混乱、めまい、視力の変化、吐き気などの症状が出ることがあります。ARIAの他、血管浮腫や蕁麻疹などの過敏性反応のリスクも注意喚起されています。